クリニック売却の相場は?価格の決まり方と算定例を医療M&Aのプロが解説
クリニック売却の相場は?価格の決まり方と算定例を医療M&Aのプロが解説

「自院はいくらで売れるのか」は、院長先生が売却検討で最も気になる点です。ただしクリニックの譲渡価格は、同じ売上規模でも利益の質や院長依存度、立地、契約(賃貸借・雇用)によって大きく変わります。本記事では、実務でよく使われる算定の基本(時価純資産+営業権)と、相場レンジの捉え方、個人診療所・医療法人での違い、価格を上げるための準備を、具体的な計算例つきで整理します。
クリニック売却「相場」が一律に出ない理由
クリニック売却の相場は「平均いくら」とは言い切れず、実務では条件次第で大きく振れるレンジとして捉えるのが一般的です。
相場=平均値ではなく「レンジ」になる
クリニック数は全国で一般診療所が10万施設規模とされ、市場には多様な診療科・立地・規模が混在します。統計上も一般診療所は増減があり、地域・科目で事情が異なります。
そのため価格も、黒字の安定院から院長依存の強い院まで幅が出ます。「相場」は同じような条件の案件同士で比べるのが前提です。
同じ利益でも価格が変わる典型パターン
例えば利益が同水準でも、院長が抜けた瞬間に患者が減る構造(院長指名が強い、専門性が院長個人に依存)だと評価は下がりがちです。逆に、複数医師体制・スタッフ定着・紹介元が安定していると「引継ぎ後も利益が残る」と見なされ、営業権(のれん)が乗りやすくなります。
売却価格の基本式:時価純資産+営業権(のれん)
価格算定の出発点として多いのが「時価純資産+営業権(のれん)」です。まず事業に残る利益を整えてから、レンジを見立てます。
実務で多い「年買法」的な考え方
中小企業のM&Aでは、時価純資産に、過去利益をもとにした営業権(のれん)を上乗せする考え方が一般的だと説明されています(目安として利益の3〜5年分など)。
一方で、評価の考え方自体は「インカム(収益)」「マーケット(類似取引)」「ネットアセット(資産)」など複数のアプローチがあり、目的や前提で結果は変わります。
基本式(イメージ)
売却価格 =(時価純資産)+(正規化利益 × 複数年)
※複数年は「利益の再現性」「成長性」「院長依存度」「契約リスク」等で上下します。
正規化利益(正規化EBITDA)を作る
相場感を掴む鍵は「決算書の利益」ではなく、M&A用に整えた正規化利益です。具体的には、
院長給与(役員報酬)を後任医師コストとして見直す
一過性費用(移転、訴訟、設備更新など)を調整する
過少計上・過大計上(家事按分、役員車両など)を整理する
こうして「買い手が引き継いでも残る利益」を作ります。
算定例(モデルケース)
※あくまで計算の型を示す例です。
時価純資産:1,500万円(現預金+在庫等−借入等を時価で調整)
正規化利益:1,200万円/年
営業権:正規化利益 × 3〜5年 = 3,600万〜6,000万円(レンジ)
→ 想定レンジ:5,100万〜7,500万円(時価純資産+営業権)
このレンジを、次章の「8つの評価ポイント」で上下させていくのが実務の流れです。
相場レンジを動かす8つの評価ポイント
同じ算定式でも、評価ポイント次第で「×年数」や純資産調整が変わり、レンジは大きく動きます。
患者数の再現性(固定患者比率、予約の埋まり方、紹介元の安定)
診療科の特性(自費比率・保険比率、季節性、単価構造)
院長依存度(院長の手技・指名・専門外来が売上の中心か)
スタッフ継続性(看護師・医療事務・歯科衛生士等の定着)
立地と競合(人口動態、周辺医療機関、導線・視認性)
賃貸借・契約(家賃、更新条件、原状回復、医療機器リース、委託契約)
財務リスク(借入、未収金、返戻金、在庫、設備更新の必要性)
労務・コンプラ(残業代、雇用契約、広告表示、個人情報管理)
特に契約・労務の見落としは「後から減額(価格調整)」やトラブルの原因になります。弁護士は契約リスクの発見や交渉・契約書作成で重要な役割を担うと整理されています。
個人クリニックと医療法人で「価格の見方」は変わる
クリニックは「事業譲渡(資産・契約の引継ぎ)」が多い一方、医療法人は持分や組織再編の論点が加わります。
事業譲渡の特徴(個人・法人共通)
事業譲渡は、譲る資産・契約・従業員を個別に移していくため、引継ぎ設計が重要です。患者への周知、スタッフ説明、賃貸借の承諾、機器リースの名義変更など、実務項目が多くなります。
持分あり医療法人の注意点(出資持分・税務)
持分あり医療法人では、出資持分が「取引相場のない株式」に近い考え方で評価される場面があります。国税庁も、取引相場のない株式の評価として、会社規模に応じて類似業種比準方式や純資産価額方式等を示しています。
また、持分なし医療法人への移行を支援する制度・手引きも整備されており、相続等での資金繰り影響を抑える趣旨が説明されています。
※ここは税務・制度設計が絡むため、医療M&Aに強い税理士・弁護士とセットで検討するのが安全です。
高く・揉めずに売るための準備(6〜12か月前〜)
売却価格は「交渉の強さ」よりも、事前に再現性と透明性を作れるかで決まりやすいです。
価格が上がりやすい整え方
月次試算表を整備し、正規化利益を説明できる状態にする
自費メニューの継続率、予約率、紹介比率など根拠データを準備
院長業務を棚卸しし、後任医師に渡せる運用(マニュアル・役割分担)にする
設備更新の見通し(いつ・いくら)を事前に出す
デューデリで見られる資料チェックリスト
直近3期の決算・勘定科目内訳、月次推移
レセプト・患者数推移(個人情報に配慮した集計)
賃貸借契約、リース契約、委託契約、雇用契約
未収金・返戻金・借入返済表、設備台帳
患者情報の取り扱い(共有のコツ)
M&Aの検討段階では、買い手へ渡す情報は「匿名加工・集計」中心にし、開示範囲と手順を設計します。医療・介護分野の個人情報取扱いのガイダンスやQ&Aが示されているため、院内の情報管理ルールはこれに沿って整備するのが基本です。
相談先の選び方と、SBCでできる支援
相場レンジを現実の売却価格に近づけるには、医療特有の論点まで含めて「手続きと引継ぎ」を描ける支援者選びが重要です。
仲介/FA選びの注意点(手数料・利益相反)
中小M&Aでは、仲介者・FAの説明責任や利益相反、手数料の確認などがガイドラインで整理されています。契約前に「どこまで支援するか」「追加費用があるか」を言語化して比較しましょう。
医療特化のPMI視点(引継ぎ後まで)
価格交渉だけでなく、引継ぎ後に崩れやすいのが「人(採用・定着)」「集患」「運用(レセプト・予約・CS)」です。
SBCメディカルM&Aアドバイザリーでは、これまでの医療機関運営の知見を踏まえ、譲渡前の磨き上げ(見える化)→買い手探索→条件設計→PMI(引継ぎ実行)までを一気通貫で設計できるのが強みです。
まとめ
ここまで読んで「うちはレンジでどのあたりか」を把握したい方は、まず正規化利益(院長給与・一過性費用の調整)だけでも当てはめると概算が見えてきます。
SBCでは、クリニック特有の論点(院長依存度、契約、個人情報、スタッフ継続)まで踏まえた売却価格シミュレーションと無料相談をご用意しています。数字が固まっていなくても、月次推移と契約状況が分かれば「上がり幅の作り方」まで一緒に整理できます。




